2017年8月28日月曜日

「水は100℃で沸騰する」は正しいか?

今期のNHK「夏休み子ども科学電話相談」は 31日まで放送が続きますが、私の当番はすべて終了しました。とてもたくさんの質問をいただいておりましたが、全部に答えることができないことを心苦しく思っています。皆さんの科学への関心を高めることができるよう、できるだけこのブログでお答えすることができればいいなと思います。「大きなお友だち」向けの回答になってしまうのはやむを得ないのではありますが・・・

さて、毎年のように寄せられる、「定番」とも言える質問がいくつかあります。水蒸気や氷に関する質問ですが、その回答のなかで「水は100℃で沸騰するのです」という私の発言に、ネット上ではいろいろなご意見があります。

何が問題かというと、実は温度の単位である「℃」(セルシウス温度)は、常温(20℃)常圧(1気圧)のもとで水が沸点を 100℃、水の凝固点を 0℃ として、その間を 100等分したものだからです。

このことについては、番組で回答するときだけではなく、いつもいろいろと考えさせられます。「セルシウス温度の定義をきちんと述べた上で、水の性質を話す」べきか、あるいは「セルシウス温度の定義は置いておいて、水の性質を話す」のかなど、どうするのがいいのだろうかと考えます。番組は学校の授業に必ずしも準拠することはないので、温度の定義を説明するほうがいいのかもしれません。

さらにこの話題は、水の沸点は正確には 100℃ではない、ということにも広がります。水は標準気圧(1気圧 = 1013 hPa)では約 99.9743℃ なのです。正確さに重きを置くか、もっと別の観点から説明するか、ということかもしれません。

科学は一般に、答えは一つです。説明のしかたは何通りかあることはごく普通のことですが、「だれでもわかる」「だれでも納得できる」という回答をすることは難しいなぁ、と今さらながら考えています。みなさんはどうお考えになりますか?

2017年8月24日木曜日

星空探検隊!

昨日 23日の水曜日、八王子市のグリーンヒル寺田団地で以前お知らせしていた、「星空探検隊!」のイベントが開催されました。ずいぶん多くの方々にお集まり頂きました。ありがとうございます。このイベントの特徴は、子どもだけではない、ということです。幅広い年代の方々が同じものを楽しむひとときです。双眼鏡を使って天体観測する予定でしたので、できるだけみなさんが手に取ることができるよう、10台の双眼鏡を用意しました。

ただ、残念ながらこの日は曇り空で、星を見ることはできませんでした。それでも、使用する予定だった双眼鏡の使い方を説明して実習してもらったところ、「大きく見える〜!」とか、「ちゃんと見えたよ!」という声が。さらに、星の観測では星の角度を測ることが必要ですが、今回の実験をサポートしてくれる「実験のお兄さん(実は法政大学の O課長)」がその方法を皆さんに教えました。

星は見えないのですが、実際に観測する予定だった場所まで歩き、空を見上げてもらいました。近くの牧場の牛や電波塔などを見ながら、双眼鏡の世界を楽しんだ後、ちょうど飛んできた飛行機を双眼鏡で追いかけることなどもできるようになりました。

星を見せてあげられなかったので、会場に戻ってからはハッブル宇宙望遠鏡が撮影したさまざまな宇宙の写真を見たのですが、子どもたちの知識が溢れ出てきました。まるで「子ども科学電話相談」の実演版です。大人たちもびっくりでした。

せっかく用意した双眼鏡を有効に活用するため、この「星空探検隊!」は毎月のイベントになる予定です! 詳細が決まったらお知らせしますので、ぜひおいでください!

(この時期は、バックデートして公開しました。レポートの期日を過ぎて提出する学生の気分がわかったような、わからないような・・・)

2017年8月16日水曜日

サイエンスセミナー(@寺田団地)

8月に入ってから、東京では毎日雨が降っています。ニュースを見ると、これは記録的なことだとか。今日などはクーラーが必要ない室温なのですが、湿度が高いため、結局「除湿」のためにエアコンは必要です。

私自身は暑さは苦手なので、晴れた日はそれほど望んでいないのですが、来週の 23日(水)の夕方から夜は晴れてもらわないとちょっと困ります。その日は「サイエンスカフェ@寺田団地」で、地域の子どもたちと夜空の観測をすることになっているから。



この日は、小学生・中学生(とその同伴者)を対象にして、「夏休み 特別こども企画 星空探検隊」と称して、八王子市寺田町のグリーンヒル寺田団地で観望会を行います。上のような企画のリーフレットが団地中に貼り出されています。

子どもたちが夜空を眺める機会はどんどん減っているといいます。都会の夜でも明るい光で、夜空が明るいこともあるでしょうし、室内でゲームを楽しむこともできることもあるでしょう。グリーンヒル寺田団地は、その立地からも都心部の光に邪魔されずに夜空を楽しむことのできる場所です。

特別な持ち物は必要ありません。「何が見えるのかな〜」という好奇心だけで十分です。夏の夜、ちょっと出かけてみませんか。もし、雨が降ったり、曇ったりしていてもイベントは行います。そのときは、グリーンヒル寺田おひさま広場(室内)で宇宙の写真や映像を見て、楽しみましょう。

詳細は上記のチラシをご覧いただくか、私にお問い合わせください。

2017年8月9日水曜日

暑い一日

今日 9日、東京ではこの夏一番の暑さだったとか。午後から急に気温が上がり、外に出るとじりじりと日差しが照りつけました。冷房の効いた研究室から廊下に出たときの蒸し暑さが非常に不快です…

そんな暑い日でしたが、午後4時ころと夜7時ころに激しい雨が振りました。午後4時ころの雨は、急に空が暗くなり、あっという間に大粒の雨が降り出しました。降っていた時間はおよそ20分ほどでしょうか。

急激に気温が上がると、暖められた地表付近の空気が上空へと移動していきます。同じ体積であれば、暖かい空気は冷たい空気よりも軽いため、上昇していくわけです。暖かい空気は冷たい空気に比べると水蒸気を多く含むことができます。

上空へ行くにつれて、空気は冷やされていき、空気に含まれていた水蒸気は小さな水滴へと変わります。空気が含むことのできる水蒸気が、冷えることによって少なくなり、余った水蒸気は液体の水になってしまうためです。小さな水滴の集まりは、雲になります。これが非常に暑い日に夕立が起こりやすい原因です。

地表に降った雨は、下水道に流れていきますが、この処理能力には限りがあります。能力を超えてしまうと、下水道から水が溢れ出てきたり、道路が浸水したりするわけです。処理能力が追いつかないという理由だけでなく、排水口にゴミや落ち葉が詰まっていて水が流れていかない、ということもあります。排水口はいつも掃除をしておかないと、急な雨に対応できないということになりますので、気をつけたいものです。

2017年8月6日日曜日

オープンキャンパス

私の勤める法政大学多摩キャンパスでは、先日の 5日(土)にオープンキャンパスが行われました。最近はどの大学でも行なっているこのイベントは、高校生が進学先の大学を考える上で、どのような雰囲気の大学なのか、どのような学生が学んでいるのか、などを実際に大学を訪れて体験するものです。

私が高校生だった頃は、このようなイベントはなかったと思います。大学といえば「象牙の塔」で、外から中は見えないのが当たり前。研究内容を進んで市民に伝えることなど、めったになかったように思います。

時代は大きく変わりました。最近の電車内の広告や新聞広告を見れば、国公私立を問わず各大学は競ってオープンキャンパスを一大イベントに仕立て、少子化社会の中で生き残りをかけているかのようにも思えます。オープンキャンパスの企画を広告会社がプロデュースするという大学もあるとか。

高校生も「夏休みの宿題」という感覚でやってくる場合もあります。高校で冊子に製本されたものを手にしながら、さまざまな質問項目を大学生に「インタビュー」している高校生も見かけました。オープンキャンパスは高校生の進路指導にも組み込まれているわけです。

本学のオープンキャンパスでは、教員による模擬授業や学生が相談相手となる進路相談、在学中の留学の仕組み、受験制度の説明などが行われました。オープンキャンパスには高校生のお子さんとご両親とでやって来る人々も多いようです。大学生に熱心に質問されていた姿が印象的でした。

多摩キャンパスでは今月末の土曜日(26日)にも、オープンキャンパスを開催しますので、法政大学を受験校として考えている、あるいはどうしようか迷っているみなさんはぜひ、ご参加ください。

2017年8月4日金曜日

子どもの頃の記憶

先日の「夏休み子ども科学電話相談」で、子どもの頃の科学との出会いについての話題が取り上げられました。自分自身にどんなことがあったかと振り返ってみると、毎月、幼稚園で配付された科学の絵本のようなものを楽しみにしていた、という記憶があります。よく弟と先を争って読んでいた気がします。弟とは 3歳違いで、弟が幼稚園に通っていたときも配付を受けていたはずなので、私たち兄弟は比較的長く読んでいたのでしょう。

その本はなんという本だったのか、残念ながら手元にないので調べようもありません。毎回の番組を聞き逃し放送で聴いているという熱心なリスナーでもある同僚は、「あの本は『かがくのとも』ですよね」と言われ、インターネットで検索すると、その書籍を確認できました。福音館書店から今も出版されているのですね。『かがくのとも』のホームページにはバックナンバーの表紙が示されていて、確かにそのなかに記憶にあるものもありました。蟻が表紙に大きく描かれているものです。

しかし、なにぶん子どもの頃の記憶。本当に確かかどうかは確信できません。ただ、その同僚は「『かがくのとも』と『こどものとも』がありましたよねぇ」と話します。この時点で、私はきっと『かがくのとも』ではないかと強く思うようになりました。というのは、毎月 2種類の本が幼稚園で配付されるのですが、科学に関係した本でないものにはまったく興味がなかったことを鮮明に覚えているのです。『こどものとも』もきちんと読んでいたら、もっと情操豊かな人間になっていたかもしれません…

子ども向けの科学絵本には、『しぜん』(フレーベル館)もあります。小さい頃の記憶であっても、そのときのことをおぼろげであっても長く覚えているものなのですね。

2017年8月3日木曜日

水はどうして冷たいの?

「夏休み子ども科学電話相談」で本日放送された、5歳の女の子からの「水はどうして冷たいの?」という質問がありました。「科学」の質問ということで、私がお答えしましたが、みなさんならどうお答えになりますか。

放送が終わると、いつもいろいろ考えます。「あの答えで満足してくれたかな」とか、「質問の答えとしてはちょっとずれたかな」など、毎回考えることはさまざまです。放送中に完璧にこなすことができればいいのですが、後悔先に立たずとはまさにこのことでしょうか。

「水はどうして冷たいの?」という質問には、いろいろな内容が含まれているのではないかと考えました。私が思いつく言葉を追加すると、
  1. 水はどうして(水道管から出てきたときは)冷たいの?
  2. 水はどうして冷たい(時間が長い)の?
  3. 水はどうして(触ると)冷たいの?
のどれを聞きたいのかな、と放送中に考えました。でも、相手は 5歳、きっとふだんの生活の中で感じたことを質問しているのだろうと、1. の内容について回答しました。蛇口をひねると冷たい水道水が出てくるという、当たり前のように思える質問ですが当たり前のことをなぜだろうと考えることは科学の基本です。

「ドライアイスはどうやって作られるの?」や「水は透明なのに(やかんの口から出てくる)水蒸気はなぜ白いの?」、そして「扇風機からどうして風が出てくるの?」、さらには「麺はどうしてのびるの?」まで科学で説明できることであれば、すべて科学の担当である私がお答えします。ということで、私は質問してくれるみなさん以上に、「どうして」「なぜ」という心を持ち続けなければならないのですね。

「わかりにくい」と言われないように、今日も想定問題を解き続けるのでした・・・

2017年8月2日水曜日

『物理学は世界をどこまで解明できるか』

スクリーンの右に表示されている黒地にリンゴが印象的な表紙の『物理学は世界をどこまで解明できるか』は、白揚社から最近出版された翻訳書です。書籍としてまとまった翻訳を手がけたのは 2011年の『ジェーン・グドールの健やかな食卓』(日経BP社)以来、久々でした。

『物理学は世界をどこまで解明できるか』の原題は、“The Island of Knowledge” とシンプルなものでした。人類の知識を島にたとえて、知識が増える(島の面積が増える)と海岸線も長くなり、未知のできごと(海に喩えられています)を見つける機会がより多くなる、という意味が込められたものです。ただ、日本語訳の書籍名として、『知識の島』というのではまったく通じないので、さまざまな候補の中から、『物理学は世界をどこまで解明できるか』に決まりました。

この書籍は、ものが「実在する」ということはどういうことか、を古代ギリシャの哲学者の時代まで遡り、歴史的に解説していきます。「実在」を確認するために、どのような研究が行われ、どのような理論が組み立てられてきたかが丁寧に述べられていきます。ものが「実在する」のは宇宙ですが、宇宙はどのようにできたのか、現在の宇宙を科学者はどのように考えられているのか、ということに話が及びます。さらに、最初に宇宙がつくられたときは非常に小さな領域、つまり素粒子の世界での話になりますので、自然な形で素粒子の話題へと繋がっていきます。「宇宙の初期を追求すること」は、「素粒子の世界を調べること」と同じ意味をもつわけです。

この書籍、400ページ近くの読み応えのあるものですが、価格は 2,500円と比較的安価に設定されています。担当編集者の方と、私の努力の結晶ですので、みなさまも書店で見かけられましたら、手にとって少し立ち読みして、ご関心がありましたらお買い求めください。

2017年8月1日火曜日

夏休み子ども科学電話相談

今年も、NHKラジオ第1放送の「夏休み子ども科学電話相談」の季節となりました。しばらくこのブログの更新はお休みしておりましたが、この番組が始まると一気にアクセスが増えるのでした。大変ありがたいことです。こういうものは続けることが大切とか。学生のアルバイトで塾講師をしていたときのキャッチフレーズだった、「継続は力なり」を思い出します… 今日からまじめに取り組もうと思います。

NHKでは今年から「聞き逃し配信」というサービスが行われていて、番組をオンタイムで聞くことができなくても、インターネットにアクセスすることができれば、これまでに放送された分も聞くことができるようになりました。これまでは自分で録音しておかなければならなかったところを、もっと手軽に聞くことができるようになったわけです。

そのせいか、インターネット上の解説サイトなどで、放送からずいぶん時間が経ってもリスナーからのコメントがたくさん追加されているように思います。みなさん、熱心に聞いてくださっているのですね。

番組でお話ししたとおり、今年は夏になる前から(?)夏バテしました。私は北海道・函館市が出身です。子どもの頃、あるいはもう少し大きくなってからも、夏は海からの風のせいか涼しい夏でした。最近は函館もずいぶん暑いようですが。「えぞ梅雨」と呼ばれる雨が数日間続くことはありましたが、津軽海峡より南の地域のような本格的な梅雨を知らずに育ったため、今でも梅雨時期、そして気温が高くなると簡単に夏バテします。

北海道出身であることを「いす」のアクセントでリスナーの方に気づかれるとは、驚きました。北海道は「コーヒー」のアクセントも標準語とは違うのです。今でも私は「コーヒー」を標準アクセントで発音できません。子どもの頃に身についたことは、なかなか変えられないものです。

今年の夏休みは、法政大学多摩キャンパスの近くで地域の小学生を対象にした理科のイベントを行います。夏休み後半の行事になりますが、詳しく決まり次第、ご案内しますので、「夏休み子ども科学電話相談」だけでなく、こちらのイベントでも子どもたちの(もちろん大人も)科学に対する関心を高めてほしいなと願っています。

2016年8月9日火曜日

広島と長崎

 この2016年の夏も、NHKラジオ第一放送の『夏休み子ども科学電話相談』で、たくさんの子どもたちからの質問が寄せられています。その質問の中に、次のような質問がありました。
  • どうして広島と長崎に原爆が落とされたのですか。
 それぞれ動物や植物、昆虫といった専門分野の回答者の方々は「『科学』には、こういう質問もくるんですねぇ」と、感心とも驚嘆ともつかない声が放送前に交わされました。この質問は、「科学」つまり私に寄せられた質問です。自然科学ではない質問ですが、小さな子どもたちにとっては、何が自然科学で何が自然科学でないのか、その線引きは重要ではないのでしょう。しかも、このような質問に的確に答えられる大人はどれだけいるでしょうか。

 放送には採用されていない質問でしたが、その答えとも言える番組が NHK で先日放送されました。『決断なき原爆投下~米大統領 71年目の真実~』です。

 この番組をもとに、寄せられた質問に答えると、
  • 原爆開発の責任者である、陸軍グローブズ将軍らは原爆の投下地点として、軍事施設があり、空襲を受けていない 17の都市を選んだ。新型爆弾の威力を確認するため、周囲が山で囲まれた地形の都市であることなども条件だった。
  • その中で広島と京都が有力候補になった。しかし、選ばれた都市に軍事施設が存在するという根拠は薄く、当時のトルーマン米大統領は「米軍が無差別殺人を行った」と国際的に非難されることを恐れ、一般市民に多大な犠牲者が出ないようにするため、京都には投下しないように軍に指示した。
  • その結果、軍は原爆投下の都市として、軍事拠点である ①広島 ②長崎 ③小倉 ④新潟 を提示した。これらの提示された都市は軍事都市であると強調されていたが、これらの都市には一般市民も暮らしていた。軍は新型爆弾の開発・実証のため、投下地点の検証を十分に行っていなかった。
  • 陸軍グローブズ将軍が作成した原爆投下指令書には、「原爆を広島、小倉、新潟、長崎のうち一つに投下せよ。それ以降は準備ができ次第、投下せよ」と記されていた。
 このようにして広島・長崎に原爆が投下された後、その現状の報告を受けたトルーマン大統領は「新たに10万人、特に子どもたちを殺すのは、考えただけでも恐ろしい」と8月10日の会議で述べ、その後の原爆投下の計画を中止したと、当時の政府関係者の日記に記されています。

 原爆開発のために多額の費用をつぎ込んだ軍の「できるだけはやく原爆を使用し、実証したい」という思惑と、原爆の使用による国際的な批判を受けることは避けたい、また戦争終結後の日本を取り込む方策を考えた政府の思惑とがすれ違っていた事実が番組では明らかにされました。

 上に書いたことを、小さい子どもたちが理解することは難しいかもしれません。しかし、自然科学と同様に、社会のしくみや歴史的事実について、「なぜだろう」と考え、尋ねたり調べたりすることで、自分の考え方が醸成されていくことを大切にしなくてはいけません。

 質問してくれたお子さんに、このことが伝わるといいのですが。